第33回ヤングシナリオ大賞への応募、お疲れさまでした
ヤンシナはコンクーラーの祭りだ。
参戦絶対。
かくいう僕も5年くらい応募を続けてきた。
もちろん惰性ではなく全力で5年。
時間にするともういくら捧げたか分からない。
毎年渾身の一次落ちを決めて冷えたチューハイを一気飲みして一言、
「まっず」。
ここまでが恒例の行事だった。
そんなヤンシナだったが、
今年は応募を諦めた
前回の記事で書いたメンタル不調が主な理由だ。
病んでいた僕にシナリオを書けと言うのは死人に鞭打って働けと言うことに同義だった。
動けるはずもない。
内心、みんなの期待に応えられなくて申し訳ないなとは思っていた。
やる気だけは人一倍のふろゆさんで通っていたから、ヤンシナの時期にブログの更新をしていないというだけで自然と周りの士気を下げてしまっていたような気もした。
だからか今年は僕の周りで断念者が多かった気がする。
そう考えるとこのブログを続けることに意義はあるのかもしれない。
自然と誰かのやる気の着火剤になっていたのかも。
いや、十中八九気のせいなのだが。
ヤンシナを諦めた理由は精神の都合とは別にもう一つ理由があった。
アイデアが全く思いつかなかったのだ。
準備段階で構想をプロットに8作品分書き起こしていた。
だがどれも僕の考える『作りたいもの』には当てはまっていなかった。
納得したものが書けない。
辛かった。
でもそれは当たり前のことだ。
こんな状態なのだから。
落ち込む以前に比べ『書いてもいいよ』と思えるハードルは確実に上がっていた。
アイデアを新しく考えようという気力は微塵も残っていなかった。
文字通り僕は死んでいた。
人は失意の底にいる時こそ良いものが書ける。
そんな話を聞いたことがある。
あれは妄言なのだと経験を持って知った。
もしかしたら一部の天才には可能なのかもしれないが。
多分何か悪魔的な、いや、悪魔が乗り移っていたのだろう。
そんな一部例外の、それもオカルト交えた話をされても困る。
普通なら失意の底にいる人間は、這い上がれないまま朽ちていく方が道理である。
ヤンシナを出さないと決めた僕は、毎日をダラダラと過ごした。
そして、
休みの日を家から一歩も出ずにゲーム三昧で過ごすという偉業を成し遂げた。
ツイッターの仲間たちのつぶやきを見ながら、
『オー頑張れよー』
と、社会人をリタイアし余暇を送っているお爺さんのような生活を送っていた。
そんな時、くうきのシナリオ大賞というダイキン工業さんの公募情報を目にした。
ツイッターの民たちを見て、
「みんな何か書いているな」とお爺さんは気づいたのである。
締め切りは3日後だったが枚数は10~15枚。
ヤンシナを諦めていたこともあって、これからの時間を捧げれば十分書き上げられる。
10枚なら足腰の弱い爺でも走りきれる距離だった。
悲しくなるから公募云々にはもう関わりたくなかった。
見たくもない。本気でそう思っていた。
でもお爺さんは立ち上がった。
書けるのに書かない。
ヤンシナに出せるのに出さない。
そう自分で決めた後ろめたさ、惨めさ、不甲斐なさ。
塞ぎ込んで脳裏の奥底に逃げてしまった弱い僕。
そういう感情に苛まれていた。
たった10枚でも応募出来れば少しはこのもやつきも消えるだろう。
そう思った。
もう少しだけ、走れるだろうか……。(cv.ふろゆ)
何かがこみ上げてきて、足を強く叩いてみた。
痛い。
痛かった。
走れそうだ。
難しいことは考えず、楽しくやるんじゃ。
お爺さんはペンと踊りながら机に向かって描いた。
シナリオ完成はお爺さんの誕生日。
偶然にも締切もその日だった。
この偶然に、何か不思議な縁を感じた。
誕生日に自分に花を贈れた。
それが何だか嬉しくて。
お爺さんは童心に帰って1ヶ月ぶりのツイートをした。
便所の落書きのようなものだった。
ワシはやった。やり遂げたんだ。
この達成感をどんなものであれ、形として飲み込みたかった。
そんな落書きにも関わらず、反応があった。
多くの人が見てくれた。
世間を恨み、人を嫌い、自分さえも呪っていたお爺さんは、未だ孤独ではなかったのだ。
手を伸ばせば簡単に若い頃に戻れるのだろう。
お爺さんは迷った。
でも、手は伸ばせなかった。
もう諦めたんじゃ。
これ以上辛い想いを重ねたくない。見たくないんじゃ。
そんな時、ツイートを見たシナリオ友だちの一人(※女性であるため以降彼女と呼ぶ)から連絡があった。
お爺さんが生きていたことに対する反応に思えた。
僕は彼女が好きだった。
理想の世界をきちんと持っている人だったから。
描く作品が好きだった。
弱い人をしっかりと見つめていることが伝わるから。
脚本家仲間の中で一際注目していた。
注目を通り越して、尊敬をしていた。
いずれ共にプロになった時は語り合いたい。
あの頃の俺たちってさあ。
なんてバカ言いながら笑って酒を酌み交わしたい。
これはお爺さんの夢だった。
そんな彼女と「次のヤンシナは交換しましょうね」という話をしていたことをお爺さんは思い出した。
いや、思い出したのではないな。
無視をしていた。
ヤンシナを諦めたという自分の弱さを露呈したくなかったから、お爺さんは忘れたことにしていたのだった。
そのことに一切触れずに連絡をくれている彼女。
お爺さんはこの優しさを無下にすることは出来なかった。
こんな現役を引退した爺に優しさを見せる彼女が、太陽のように眩しく、温かかった。
無視していた「自分」を殺したくなった。
ヤンシナどうこうはもう、関係がなくなっていた。
俺はやるんだ
書き上げて彼女とシナリオ交換をする。
明言するが、下心云々といった動機は一切ない。
純粋に約束を守りたかった。彼女を裏切りたくなかった。
日和った自分をぶん殴り、僕は再び立ち上がった。
なんだよ爺って。意味が分からねえ。理由つけてんじゃねえタコ!
お前ふろゆだろ。まだ爺じゃねーだろ。
やる気だけが取り柄だろ!!
「ヤンシナの作品交換をしましょう。これから書きますが!」
決意を込めて正直に気持ちを送った。
締切まで1週間。もう書くっきゃねえんだ。
しかし僕に描ける弾丸は残されていない。
時間もあまりにも少なかった。
……全く筆が進まない。
ここで諦めるのは簡単だった。
「やっぱりダメだったよーアハハ」と3日後にでもラインを一つ送れば良い。
そうやってヘラヘラと笑う僕を見た彼女は何と言うだろうか。
きっと「いやいや、ふろゆさんは頑張りましたよ。お疲れさまでした!」
と、ねぎらいの言葉を掛けてくれるのだろうな。
彼女の優しさにまた甘えてしまうのか、僕は。
もう見えている未来を見るのは、懲り懲りだった。
出来ねえじゃねえ。やるんだよ。
自分で自分のケツを引っ叩いた。
ここで弱気になってどうする。
ボツにしたプロットで描き始める。それしかないだろ。
うまくいかなくてもやる。
不格好でも、自分にはこのプロットしか【出来なかった】んだから。
頭の中の理想と現実の苦虫を噛む。どちらも、ひどい味がした。
それから5日かけて35枚書いた。
あと15枚足せば応募が出来る。
もう少し、もう少しだ。頑張れふろゆ。
……。
僕と爺は、動けなくなっていた。
シナリオを見る。35枚で話が完結してしまっている。
広げようとすると、蛇足にしかならない状況。
それに、これは僕の描きたかった世界ではなかった。
そんなのは書く前から分かっていたのに。
そして、
くそつまらないものだった
これが何よりも嫌だった。
なぜ僕はこの世界に戻ってきてしまったのだろう。
自分を呪った。
間違いなくハイだったのだろう。躁鬱だったのかもしれない。
そうだよな、やる気で何とかなるなら今頃僕はプロの第一線にいる。
一瞬で鬱に引き戻された。
『ヤンシナ応募、諦めます』
彼女にラインを送った。
僕は、また見えている未来に、甘えた。
彼女の作品を読んで、一生懸命その感想を送ろう。
お爺さんは夢を託すことにした。
返事が来る。
分かっている。優しさに溢れた文章。
あの子はそういう子だ。
だから『ありがとう、そしてごめん』と、心を込めて返そう。
ラインを開いた。
諦めんなよ! お前の作品良いだろうが!
何なら手伝うから35枚見せてみろや!
叱咤激励の言葉だった。
それも僕の作風を認めてくれている文面付き。
いや、違うんだ。尊敬しているのは僕の方で……。
やります
気づけばそう返していた。
35枚を見せることは出来なかった。
納得いくものを彼女には見せたかったから。
彼女の信じるふろゆさんに、僕はなりたかった。
5年間妥協することなく描き続けたあのふろゆさんに。
……。
僕は爺と心中する覚悟を決めた。
31日の23時59分まで持久走だ。いいか?
爺は何も言わず頷いた。
時計は31日(締切日)になろうとしていた。
これがドラマだとしたらクライマックスの良いシーンだ。
ヤンシナ締切日は丸一日予定が空いている。
というか、空けておいた。爺ではない。僕が空けていた。
爺はグッジョブと親指を立ててきたが、僕はその指をへし折った。
これはドラマの世界ではない。
確かにドラマならハッピーエンドの展開に続く場面。
だが、ドラマの主人公はテレビの中にしかいない。
爺は本当にいつも甘えるからダメ。
やる気さえあれば、ここで立ち上がりさえすれば、24時間で何とかなる。
本気でそう思っている。
未だページ数はゼロ。アイデアは何一つない。そんな状況なんだぞ!?
本気なんて甘っちょろい言葉じゃダメだ。
命を削るんだよ!!
残り24時間。
ひたすら描き続けた。描いては、消した。
話は二転三転もした。
題材も、ジャンルも、何度変わったか分からない。
ただひたすら、自分が描きたいものを探していた。
爺さん、分かるか?
50枚を24時間で、という注文ではないんだよ。
描きたいもの、作りたいものを探す24時間の旅路なんだ。
……。
……。
そして、
遂に初稿があがった。
時計は19時とかその辺りだったと思う。
50枚超の満足いくものをゼロから一日で書き上げたのは初めての経験だった。
全く眠くなく、ずっと頭が冴えていたことを覚えている。
クールダウンを兼ねた休憩を19時間ぶりに取る。
スマホ片手にネットを見ると、くうきのシナリオ大賞の一次審査の結果が出ていた。
なんと、爺のシナリオは通っていた。
一次で100作品近く通っていたけれど、優秀賞という名の賞金が出ると書かれていた。
爺。お前、受賞者じゃん!
僕は爺と抱き合った。
締切直前に、完成した作品を応募した。
爺と走り続けたからだろうか。
応募出来た作品は、
ロードムービーだった
僕が描きたかった作品は、今まで書いたこともないジャンルだったのだ。
これを読んだ審査員は何を思うだろうか。
きっと驚くだろうな。
僕と爺のくっさい汗を、作品を通して感じるだろうから。
ヤンシナお疲れさまでした!
(旧作も出したよ)
面白い仕掛けも人間関係も、設定も伏線も何もないロードムービー。
ここが面白かったよね。と具体的に言えないそんな作品。
一次落ちだろうな。推敲を全くしていない。
サラッと2回読む時間しかなかった。
プロットは大まかにしか書けていない。
多くの矛盾がありそう、誤字もありそう。
三点リーダー症候群を直す時間もなければ、あらすじもとっちらかって酷い有様。
でも、満足している
今年は本当に頑張った。
たった一日だったけど、いつもと同じくらい頑張れた。
おかえり、僕。さよなら、爺。
私信...
友だちへ。
あの時ケツを蹴ってくれてありがとうございました。
そう爺がお伝え下さいと言っておりました。