雑記 思い出

七転び八起きの弟子

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転倒違いって言うね(点灯)


 

以前、シナリオを始めたての高校生にシナリオのいろはを教えていたことがある。

と言っても書式だったりドラマだったり、どこでも誰からでも学べる基礎的なことだけだ。

それ以上を教えられるほど僕は大層な人間でもないし、僕みたいな偏った考えの人間のシナリオ術を学んだところできっと何者にもなれないだろう。そう思ってのことだ。

もちろん、僕がシナリオを学んだ参考図書は数冊読破させた。

シナリオの何が正しいかなんてものは先駆者たちの書いた本に全部載ってある。

その先の正解は全て自分の力で見つけ、掴み取るものだ。

だからもう僕から教えられることはない。

実践を通して一通り書式やドラマのチェックをして、あとは本人の自主性に任せようと放り投げた。

高校卒業したらどこかのシナリオスクールにでも通いな?

君にとってそれが一番良い。

これでこの奇妙な師弟関係はおしまい。

いつかどこかのコンクールの表彰台で会えるといいな。

 

……。

 

すると以降、毎日のように届くプロットの嵐。

どうやら僕に読んで講評してほしいとのことだった。

 

面倒くせえ

 

僕みたいな結果が伴っていない人間が他人にシナリオを(いろはでも)教えていることを面白く思わない人間がいることは知っていた。

この先も高校生のシナリオを読むことは苦ではないものの、その行動で変に敵を増やすのはマジで超(×1億)嫌で面倒だった。

僻みか? 蔑みか?

親切面するならもうお前が助けてやれよ。

マジでそう思う。僕だって知らぬところで敵が増えるのは面倒だと思っている。

高校生じゃない。そう、お前のその感情が面倒なんだよ。

っていうかシナリオを読んでほしいと言ってきた人の作品を読む読まないは僕の自由じゃないか。

だって、頼まれてんだから

『シナリオは素人に教わるものじゃない』と言う意見は正論に聞こえるけど、日頃より素人の講評でくっそ学びの機会を得ている僕から言わせてもらえば、そんなものはコミュ力の乏しい人間の詭弁だ。

『まだ若いんだからちゃんとした場所で学ぶべき』

????

バカ言え。

ちゃんとした場所ってどこだよそれ。そんな神がかった場所があるならまずは僕に教えてくれ。

ちなみに脚本家志望が集まるZoom勉強会、企画ブレスト会、シナリオ交換会、どれも参加させてもらっているけれど、毎度まいど超絶サンキューだよ、頭上がんねえよ。

シナリオぼっち最強説も一つだと思うけどな? 押し付けは勘弁してくれ。

っつーか『若いんだから』って関係ねーからっ!!

お前こそ下心透けてんぞハゲがああああ(ハゲてなかったらごめん)

 

だから『講評くらいなら』と、周りの目は気にしないことにした。

自分の中の軸と直感を信じる。

頼られて悪い気はしなかった。毒を食らわば皿まで。

基礎を教えると言ったからには一次通過くらいまでは付き合うか。

でも僕に教えられることはないからあくまで『講評だけ』な!!

そうやって再び始まった師弟延長戦。

 

しかしこれがまた、

 

全くドラマが描けない

 

いろは、教えたよな?

本も何冊か読ませたよな??

それで届くのはいつもぶつ切りシーンの紙芝居シナリオの連続。

僕も似たようなものを描いちゃうから笑っちゃうけど、人のシナリオだとより客観的に見れるのな。

描きたいシーンばかりが繋ぎ合わされていて、そこにドラマとしての一貫性がまるで無い。

そんなものばかりが毎日毎日届く。

何が伝えたいのか全く分からない。

だから講評は毎回酷評ばかり。

もちろん良い方向、主人公のドラマが最大限に盛り上がるようアドバイスは添える。

でなければ埒が明かない。

本人が自分で気づき、成長しなければいつまで経ってもドラマは完成しない。

悩めっ! 苦しめっ!!

その苦しみさえドラマの糧にしろ。歯ァ食い縛って描きまくれ。

補助輪くらいにはなってやらぁ!!

 

……ピコーン(プロット到着)。

 

ダメです(返信ポチ)。

 

ピコーン。

 

ピコーン。

 

ピコーン。

 

ピコーン。

 

……。

 

もうシナリオが完成することはないんじゃないだろうか。

そう思わせられるような日々だった。

 

 

正直、先の理由もあって、心の中ではいつ終わっても良い関係だと思っていた。

僕側のメリットを考えてみたものの、ほとんどない。

毎日届くプロットに目を通すのは思っていたより大変だった。

あまりの出来に感想を送るのが億劫に思う日だってあった。

事実、自分の作品でさえ手一杯なのだ。

以前コメントでそんな状態を心配されたことがある。

「お前にそんな余裕はないだろ」と。

うん。全くの同意。

何より自分の将来が大事だ。それは僕が一番分かっている。

っていうか僕自身も真っ当なドラマが描けているのか怪しいんだぞ。

僕だって一つでも多くの作品を描かないとまずいんだ。

……。

それでも、僕の都合で『切る』ことは微塵も考えられなかった。

高校生が『もう辞める』と言うまでは続けよう。

自分の中の軸と直感で始めた師弟関係。その終わり際も軸と直感で悟りたかった。

まあこれだけ毎日酷評を送ってんだ。数日すればきっと嫌になって辞めるだろう。

何も僕が進んで悪者になる必要はない。

そして……。

 

……。

 

半年が経った(早)

 

いつも通り、今日もプロットが届く。

前回の講評内容はこうだ。

 

『描けないからって他の題材に逃げるなら最初から描きたくねーんだよ。だったらもう辞めちまえ』

 

我ながら鬼である。

これをシナリオ始めたての高校生に言うんだからな。酷評と言うか、もはや引退勧告に近い。

風呂の呼吸とか普段言って遊んでいるけれど、鬼殺隊にシバカれるのは紛れもない僕の方だろう。

思い返せば半ばストレスチェックみたいな、いつ辞めるかな? というマジで鬼みたいな考えが少しなりあったかもしれない。

言い訳すると、一週間近く考え練ったプロットを詰まったからと簡単に捨てて新しい話に乗り換えようとしたからイラつきました。大人げなかったのは百も承知だけども真の脚本家志望諸君なら無責任に投げ出すことに怒りを覚えること、あると思います。

 

 

それでも今日もまた、いつも通りプロットが届いたのである。強い。

七転び八起き

この言葉がよく似合う学生だ。

さて、八転び目は起き上がれるかな?

プロットに目を通す。

 

……え。

 

格段に面白くなっていた

 

キャラクターは魅力的で展開もグッド。道中の意外性もある。

ラストの着地点はちょっと変えないといけないな。

でもでも何より、

ちゃんとドラマが描けている

うん。これならコンクール一次、もしかしたら行けるかもしれない。

お世辞抜きにそう思った自分がいた。

思わず笑みが溢れてしまっていた。

この半年間で初めて心の底から認めてあげられたかもしれない。

まだプロットだけだけど。

この先完成まで果てしなく長い道のりだけど。

決して100点満点はあげられないけれど。

 

褒めてあげたい

 

だから今日はこの記事を書いた。

こんなことしかしてやれねえ師匠だけども。きっと教え子も読んでくれているはずだから。

 

頑張ったな。

 

その一言を伝えたくて。

半年前の君にこのプロットを見せてあげたいけれど、きっと半年前の君にはこの良さが理解出来ないのだろうな。

だからこの作品は紛れもなく『今』の君が描いたもの。

僕と言う鬼に『半年間』めげず立ち向かって得た君の功績。

『素人に教わる意味なんてない』そんなのはやっぱり嘘っぱちだった。要は本人次第。

だってこんな僕でも大丈夫だったんだから。

 

七転び八起き

 

これは騙し騙しで脚本家を目指す僕にもよく刺さる言葉。

僕も負けずに描き続けようと思う。

 


 

テレ朝のブレスト会で提出したプロットを大幅に書き直すことにした。

本編を25ページくらい描いてしまっていたんだけれども、やっぱり納得のいく作品にしたい。

これは持論だけれども、良いドラマと言うのは一本道だ。

漫画を描く話なら、漫画を執筆し終えてFin。

彼女を探す話なら、彼女を見つけてFin。

社員旅行の話なら、社員旅行に行ってFin。

寄り道なんて何一つない。だから他の要素を思い出そうと思っても思い出せない。

シンプルな話なのに、面白いと思える。心に残っている。

あらすじだけなら5分で終わるものが本編では60分。

そのふんわりとした思い出せない余白の55分が実はページの大半を占めている。

そう、そこがドラマなのだ

だから道を整備して、脇道は潰して、それで気持ちよく登場人物を歩かせたい。

そのためにまた一からプロットを練った。

ブレスト会で言われたことはきっとそういうことだ。

これでシナリオが良くなるかは分からない。

でも、提出したよりは良いものが描けたような気がする。

気を取り直して本編をまた描き始める。

 

 

まだ1ページ目だけど、筆がとても軽い。

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