真っ直ぐ歩いていなくとも、僕はこれを前進と呼びたい
自分の置かれている『現状』が嫌だった。
嫌いで情けなくて惨めで。
そんな人間を誰が『好き』と思ってくれるのだろうか。
自分を好きでない男を他人が好きになってくれるわけがなく。。
それは創作の世界にも通じていく……。
ホワイトで休みも多く同僚には良い人たちしかいない。
そんな職場を辞める人間はどうかしている。
しかしそこで狂った選択をするのが創作の世界に生きた者なのである。
僕は転職を決めた。ここにいる自分を好きになれなかったから。
毎日同じことの繰り返しが嫌だった。
自分の生き様を、大嫌いから大好きに変えたかった。
もっと早くにブログでもオフ会でも仕事については話せれば良かった。
誰かに相談したかった。
でも最後まで、その勇気はなかった。
11月某日。
転職を考えていた僕は、一つの求人を見つけた。
公益法人の劇団のお仕事である。
海外公演やツアーをしているような由緒ある劇団。
ここの制作部が広報・企画の人材を募集しているとのことだった。
一度でも脚本関係のお仕事を探したことがある人なら分かるかもしれないが、脚本関係のお仕事は『ゲーム系』『YouTube系』『マンガ系』と飽和しきっている。
ちなみに『YouTube系』は手広く経営をしている弟が一度求人を出していたことがある。
『やる気があれば誰でも採用。応募者は褒めてりゃ勝手に原稿を書いてくれる。中でも主婦は使い勝手が良き』
みたいなことを言っていた。こんなんでも人気求人で満足度は高いようだった。
同業種のシナリオ仲間の一人は『まじでやめたほうがいい』と言っていた。本格的に学んできた人ほど苦痛な仕事なのだろうな……。
そんな求人が溢れるのが脚本業界。もちろん中には良い求人もあるのだろうが……。
その中で一際異彩を放つこのお堅い求人に、僕は目を惹かれた。
当然のように付いている『人気』タグ。おまけに添えられた『女性活躍中』の文字。
広報=女性という図式には納得いかないが、応募してみることにした。他に同じような求人があるはずもなく。。
書類選考……
あっさり通過した
書ける項目は全部埋めた。作文はお手の物だ。
それでも通過には驚く。
アラサーで業界未経験のチンパンジーだぞ??
少し前にやった舞台経験が効いたのか?雑誌に載ったのもプラスに?
色々重なったと思う。何にせよ通過した。
実績ってすげえ。やってきたことってすげえ。と思った。
新卒カードを使ってもきっと通らなかったであろう求人の書類選考に、こうも簡単に引っかかることが出来た。
コンクーラー諸君に言いたい。実績は使ってこそだということを。
実績を取るまでは利用されたっていい。ただそこから先は利用しろ。ひたすら得たものを使い倒せ。
受賞したらすぐそれを活かせなきゃそれはただの栄冠。栄光ではない、栄冠。
トロフィーも数集まれば様になるけどご存知の通りここはそんなに甘い世界ではない。
大賞一本取ったらその一本が最後と思ってそれ使ってやれるだけのことはやった方が良いぞ!!
書類に通ってすぐ面接に呼ばれた。
面接はどうやら二回。
劇団広報の面接。一体どんな格好で行けば良いんでしょうかね。。
僕の嫌いな行動の一つに『何でも他人任せ』というのがある。
例えば何かを決断する時に先に調べたりとか。
そういうのが本当に好きではない。
ひどいのだと誰かと付き合う付き合わないを友だちに相談して決めてもらうとか、占いとかね。
最悪だと思う。MBTIとかもあんま好きじゃない。勝手に決めんな俺の性格。ちなみにENFPです
昔いいなって思っていた子がこれで、僕は今誰と話しているのだろうと分からなくなって嫌になって連絡をやめた。
面接の服装はどこのサイトもリクルートスーツが無難と書かれてあった。
これもその悪しき風習に思えてくる。気に入らない。
無難なのは間違いないけど、思考停止も甚だしい。
面接の模擬練習や完璧な質疑応答集でさえ、胡散臭さが増すばかりだ。
何一つ自分のことを伝えることはかなわず、嘘八百を並び立て、これで通過するようなら相手企業がむしろチンパンジー以下でこちらから願い下げである。
フォーマルな場とはいえ面接は人対人。
テンプレが正しいのは『テンプレで一番になれる人のみ』。
実績だけで勝ち上がっていける学歴職歴功績、その全てを持ち合わせたものだけだ。
僕みたいなつまらない人間がテンプレ片手に正面切ったって絶対に落ちる。
色々と考えた結果、服装はカジュアルジャケットに白Tで決定。
ネクタイやシャツを着なかったのは自分の思う広報のイメージがそうだったからだ。
今思うとベンチャー企業の若手社長はみんなこんな格好をしていた気がする。
いざ出陣。
オフィスに到着。
インターホンを押すと若い女性がやって来た。制作部の人だろうか。
スリッパを履きそこねた僕を見て爆笑したその女性のおかげで、少し緊張が解けた。
応接室へと案内される。
履歴書と職務経歴書。頼まれていない脚本も用意して待機。
しばらくして採用担当の人が来た。
男の年配の方だった。
土日休みの中、土日に面接を設定してくれたことに対してまず、感謝を述べる。
するとあちらから採用担当が体調を崩した旨と代理でこの人が本日の面接をしてくれると伝えられた。
『今日は急遽久々に面接すんだけど、お手柔らかに頼むよぉお』
ワンピの黄猿みたいなテンションの人だった。
強者感が半端ない。
解けたはずの緊張が、その場の空気が、再び凍りついた。青キジだったかもしれn
誰が来ても精一杯やるだけだよな……。
……。
……。
……。
今までの人生で何をやってきたかとか、自分の強みとか、面接っぽいことを一通り聞かれた。
表舞台に立つのは慣れっこだったし、自己分析は飽くほどやった。
頭の中を言うだけで済むならこれ以上のことはない。緊張はなかった。
就活では自己分析が大事なんだと学生の頃に酸っぱく言われてたなーなんて思い出して懐かしい気持ちにさえなってた。僕も大人になったもんだ。
しかし舞台について聞かれた時はひたすらに困った。
映画やドラマのシナリオ以外全くやってこなかったもんだから、舞台の名作と呼ばれているものが全く分からず、劇作家の名前を言われてもちんぷんかんぷん。
あなたの好きな劇作家は?と聞かれた際に思わず「つかこうへいさんです」と答えた。
昔「作風が少し似ているね」とたった一度だけ褒められ、存じ上げるようになった劇作家さん。
すごい人なのは分かってる。作品を見たことはなかったけど、僕が推せるのは彼だけだった。
面接官は「ふーん。その世代なんだねええ」と感動した様子で好感触だった。
ありがとう、つかこうへいさん。
他にもカフカの変身について掘り下げて話したり、創作に必要な技術や将来の展望についても一通り掘られた。
それとなく完答出来たところで面接終了。ちなみにカフカはあらすじだけ読んで読破した気になった程度で乗り切った。あまりにもつらい。
所々ひどかったけど、創作一筋でやってきたことに説得力を持たせることが出来た面接だった。
好感触。
『僕は君が気に入ったからねええ。上には推しておくよおお』
そう黄猿に言われてこの日は終わった。
帰り道。
ホームページを見ていると面接してくれた人はそこの理事だった。まさかのトップ。
え、上に推すの上とは一体どこですか。もしや五老星
家に帰ると早速二次面接の案内が届いていた。
良かったバスターコールはされていなかった。
二次面接の日は二週間後だった。
同じ正装で出陣する。
ちなみに前回の面接で見た目については最初に突っ込まれた。
『堅いねえ。もっと緩くてもいいんだよお?』
これ以上だとパーカーにデニムとか??
もう正解は分からなくなっていたが、リクルートで行っていたら終わってたなと思った。
やはり情報の鵜呑みは下策である。
インターホンを押して前回と同じ女性の方に応接間へ案内される。
この日は自動ドアを閉めようとした僕に『そこ自動ドアなので、プッ』と爆笑してた。
この子は緊張を解すのが上手だなと思った。
二次面接は女性の方だった。
最寄り駅や給料のこと、勤務開始日、業務内容等。THE採用面接って感じの面接だった。
劇団の広報制作として出来ることについてだったり広報のプラン等を求められたり。理想論全開で語り尽くした。実現可能かどうかは知らん。
終わりに『理事が大変推していたので今日、ふろゆさんに会うのを楽しみにしていたんですよ!』と笑ってくれた。
何だか嬉しかった。誰かに推してもらえるのって嬉しいな。
こうして僕の転職活動は終わった。
悔いはなかった。手応えあったし楽しかった。
落ちたらまた良い求人が出るまで頑張ろう。
女性活躍中の条件の時点でそもそも厳しいんだ……。
それから1週間ほどして、連絡が来た。
内定!!
久しぶりの就活は一撃だった。神に感謝。
面接が盛り上がったのが大きかったな。大事なのは愛嬌と清潔感。
1月15日から入社です。
未経験の業種で右も左も分からない全くの初心者。
きっと、いや、絶対に大変だ。でもそれを希望していた。望んでいた。
10年前の僕に出来なかった仕事が、これから出来る。
来年からは制作部の人間として舞台制作に携わっていきます。
聞いたところ広報制作部は女性比率100パーセントとのことだった。
「女性活躍中」ってそういうことだよな。
僕を入れたのは新たな試みとのことで、面白そうな人だったから採用したとのことだった。
広報ってのも生きた。ほんと奇跡。ありがてええええ。
採用担当の方は『舞台を観ること、知ること。古典演劇も学ばないといけないね』と話してくれた。
僕からすればこのどれもがシナリオの道に通じている。
ぜーんぶ仕事の中で出来るのだから、こんなハッピーなことはない。
仕事でもシナリオ、趣味でもシナリオ。
その両立が叶うなんてな……。
2025年は自分を好きになる年にする!!
仕事を辞めて執筆に専念したい。
プロを目指すなら人生全BETした方が良い。
こう思う人ってこの界隈には多いと思う。
実際に実行に移している人を僕は周りに何人も知っているし、何なら僕もそのクチだった。
でもそういう選択をするとどうしても胸を張れず生きてしまう。
面白いシナリオを描ける才能は、面白い人間の下に降りてくる。
面白い人間とは客観的に見て『魅力のある人間』のことだ。
魅力≒変人であると勘違いしてはいけない。
世の中皆どこか変だし、多分自分が思っているほど自分は変ではない。
『魅力ある人間』は自分を心の底から好きな人間。
自分の生き方を、今の在り方を肯定している人間のことだと思う。
僕はそうなりたくて、転職を決めた。
仕事を辞めて夢追い人になる人間を心の底から『魅力的だ』と言う人はそういないだろう。
悲しきかな価値を最も感じるのは自分だけだと思う。それも最初だけ。
後から付いてくるのは偽の自信だけだ。虚栄心と言う。
仕事を辞めるという選択は、創作における武器を一つ手放すことに等しい。
有利どころかむしろ大きなハンデを背負うことになる。
日常生活。我々社会人にとっては『仕事』こそが創作のエネルギーに成り得る。
もちろん仕事をしていると描く時間は物理的に短くなる。
でも時間がいっぱいあるから良いものが描けるかと言うとそういうわけではない。
8年間。仕事柄それなりに時間に余裕を持てた僕が言う。
時間があればいいわけではない、と。
みんなには同じ失敗をしないで欲しい。
極端な話。
無職が一年かけて描いたシナリオと社会人が一年かけて描いたシナリオ
どちらが読みたいかって話。
きっと前者を選ぶ人は少ないはずだ。だって絶対ペラい。実際ペラい
作品のペラさは僕が実証している。
ペラい生活を送っている人間がいくら哲学に耽ったところで浅瀬をスコップで掘る程度のことしか出てこない。
そこに真珠があるはずもなく。
真剣に生きてこそ、作品に深みが出てくる。価値のあるドラマが出来る。
だから仕事は辞めんな、頑張れ。
無職なら働け。
バイトなら定職に就け。
彼女がいないなら、彼女を作れ!!
胸張って生きて、生きて、その上で執筆しろ。
執筆より何より自分の人生を一生懸命生きろ。
そう皆に伝えたい。
脚本をやってきて、文字通りキャリアを築くことが出来た。
仕事でもシナリオ、趣味でもシナリオ。
これからは企画を提出する機会もあるし、脚本家との打ち合わせに同行することだってある。
原稿を描くことはまだまだ先だろうけど、創作の世界で働いてまとまった固定給を貰える。
こんなに嬉しいことはない。
とても運が良かったというのはある。体調不良で理事が面接とかね……。
それでもシナリオをこれだけやってきたことがこのキャリアへ続いたのだと確信している。
ギリギリでも質疑応答に答えられたのはシナリオを長いことやってきたからだし、
持参したシナリオも採用担当の方が読んでくれてそれなりに良い感想をくれたのも大きかった。
内定連絡の際に『脚本家との打ち合わせは頼みますね』と言ってくれたことはとても嬉しかった。
ほんと、腐らず諦めず長くやっているといつか良いことあるなって思った。
これからどんどん自分を好きになる。
それに比例して僕のシナリオはどんどん面白くなっていくだろう。
そんな伸び代を感じている。
ばいばい大嫌いだった僕
そして
おかえり!大好きな僕!!!!!
かもーん2025ฅ^._.^ฅ